小さな音符のメロディ
昨日、夢をみた。
とてもやさしくて、とても悲しい夢。
夢の中で、大好きだった人が、こじんまりとした静かで家庭的なレストランの小さいテーブルを挟んでぼくの向かいに座っていた。
夢の中のぼくは病気が重くなる前で、二人はまだ恋人同士だった。
そのレストランはあんまり人には知られていないけれど、気持ちのこもった素敵なもてなしをしてくれるご夫婦が切り盛りしていて、ぼく達のお気に入りだった。
それは出会ってからはじめて迎えた彼女の誕生日。
彼女はチェロを弾いていたから、ぼくは自分で作った少しだけ歪なカタチの小さなシルバーの音符のピアスをプレゼントした。
彼女はよろこんだ後に、ちょっとはにかみながら言った。
「音楽を勉強してるって言うと、たまにもらう贈り物は音符とか付いてる小物が多いんだ。でも、実はそんなに音符が好きってわけじゃないんだ」
「……でもね!でも、それとはぜんっぜん!関係なく、すっごくうれしいんだよ。ありがとう」
「あ、あー、あぁ……余計なこと言うんじゃなかった……」
「このなんとも言えず曲がった感じとか、なんだかきみに、似てる」
それからずっと、手をつないで歩く彼女の左耳にはへそ曲がりな音符が光っていた。
なんとなく、ちょっとだけ申し訳なさそうに。
……あたたかい思い出の夢は、眠りからさめてパチンとはじけた。
やさしい気持ちが大きくふくらんだ、風船みたいな恋だった。
今ではあの音符は彼女の部屋の引き出しの片隅で、うたうことを忘れて静かに眠ってる。
たぶん。