わらって、ゆるして。

躁うつ病日記

短編小説 : サンタクロースをやっつけろ!

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新しい派遣先は最高だ。

 

まず時給が相場より150円も高い、ダサい制服がない、派遣先の社員が私を"派遣さん”って言わないでちゃんと“斎藤さん”って名前で呼んでくれる、残業する程仕事がない(これは収入的にはちょっぴり痛い)、休憩も10分くらいなら割と自由にとって良くて、何よりオフィスのすぐ横に私の大好きなミスタードーナツがあるのだ。給湯室に電子レンジだけじゃなくて珍しくトースターもあるから、ミスドで買ってきたオールドファッションをトースターでちょっとだけ焼いて表面をカリカリにして食べるのが、ここ最近の私のお気に入りの休憩の過ごし方になってる。

 

こういう”アタリ”の会社に派遣されると、せっかく受験を頑張ってそこそこの私大を出たんだから、暇なまーちゃんと馬鹿な遊びばっかりやってないで、就職活動をもうちょっと真面目にやれば良かったかなってちょっぴり後悔する。でも良いんだ、毎日が小学校の夏休みの冒険みたいで楽しかったから。

 

昨日、まーちゃんからラインが届いたのは、仕事を休憩して一息入れるおやつの時間を少しだけ過ぎた頃だった。

 

私は小さい頃から「三時のおやつ」という言葉の響きが大好きで必ず三時にはおやつを食べてその習慣を続けるうち、時計を見なくてもいつのまにか午後三時を体が勝手にわかるようになってしまった。でもそのこととまーちゃんからラインがきた話に関係があるわけじゃなくて、寧ろ全然関係なくて、思ったことをそのまま言葉にしようとしてみただけなんだけど。そんなこんなで(どんなこんなだ?)おやつの三時過ぎにラインが届いたって言うわけ。

 


以下、ラインの内容。

 

“どうする?今日のサンタ狩り”

 

それを読んで今日がクリスマスイヴだということを私は思い出した。オヤツを買いに行ったミスドの店員さんがいつもとちょっと違うなと感じたのは、多分サンタ帽をかぶっていたからだ。

 

まーちゃんからは毎年クリスマスイヴになるとこんなへんてこな文面が送られてくる。一人でイヴを過ごすのは寂しいから遊ぼうよって素直に言えば良いのにそういう直接的な物言いをまーちゃんは凄く恥ずかしがるから、巡り巡ってどういう思考の回転の帰結か「サンタ狩りでもやりませんか」というわけの分らないお誘い文句になってしまうというの、だと思う、多分。

 

馬鹿だね。

 


でも私は馬鹿は嫌いじゃないから。

 

“とりあえず仕事終わったら連絡するね?”

 

といった具合にやっさしいラインを返してあげる。すぐに返信が来る。

 


どうせ今日もなんにもやることがなくて家の周りでもほっつき歩いているんだろう。まーちゃんの家の周りは遊歩道や並木道や川沿いのサイクリングロード、エトセトラ、散歩に使う道にはまったく不自由がない。

 


前にまーちゃんが言っていた。

 


「偉大な思想家と言うのはだな、自分にとってうってつけの思索用の散歩道を持っていたのだ。彼らはそこで物思いに励み、その妄想が人類、ひいては世界の礎になっていったのだ。京都の哲学の道を知っているだろう? 哲人が歩いた道だ、僕の家の前の雑木林をなぞる散歩道もいつかそんな風に誰しもが知る名前が付けられるだろう。僕の名前の漢字がそのネーミングの一部に付けられるだろう」

 


それを聞いた私が「京都の哲学の道はどんな有名な人が歩いていたの?」と聞き返したらそれには答えずに「そう、散歩が、思索がひどく大事なんだよ」とブツブツ自分の世界に勝手に潜っていってしまってしばらく浮き上がってこなかった。自分の知らない知識のことを聞かれたので都合が悪くなり逃げ出したんだ。へなちょこ。

 

つーわけで、まーちゃんは暇だ。もう本当に、可愛そうなくらい。だからラインの返信も早い。

 

“クリスマスイヴに仕事なんて随分と馬鹿馬鹿しい話だ。御機嫌よう! また後で!”

 

人の親切心を無下に引き千切るような心ない文面を平気で返してくる。

 


でも私は許してあげる。まーちゃんに悪意がないのは分かってるから。そのことを分かってあげられるのは、多分、私だけだから。

 

「仕事終わったよ、今どこにいるの」

 


定時で仕事をさっさと上がってエレベータを下りて職場の自動ドアを出たところでまーちゃんにiPhoneで電話をかける。

 


電話口にある耳と電話にあててない耳の両方から「目の前だよ」と言う声が聞こえてまーちゃんが私の目の前に立っている。私はブチッと電話を切る。

 


まーちゃんはよれよれの黒いピーコートに穴のあいたブルージーンズを履いて、もとが何色だったか分からないくらい汚れたコンバースのローカットオールスターの踵の部分を潰してサンダルみたいに突っかけている。いつもかぶっている変な色のニットキャップを冠っていなくて、短い髪の毛を整髪料でところどころ無造作に立ててる。グレーのマフラーを首から上にぐるぐる巻きにして鼻まで隠して、そのことでぎらついた目元がやけに強調される。

 


まーちゃんの眼を見るといつも思う。これは、頭の中身がしっちゃかめっちゃかになって収集がつかない人の眼だ。その眼光はとても綺麗だけど、なにをしでかすかわからないことと綺麗であることは関係ない。いや、関係あるかもしれないけれど。分かんない。今にも叫びだしそうにギラギラと光るまーちゃんのつがいの瞳。

 


「ちょっとまーちゃん、職場まで来ないでっていつも言っているでしょう。ていうか新しい場所教えてなかったよね?」

 

私は声を少し荒げて言う。言葉のささくれと心の揺らぎは私の場合、いつも正確な比例関係を作り出す。

 


「あぁ、この前飲んでる時にお前が先に寝ちゃったから、暇つぶしに携帯見て新しい派遣先、調べさせて貰ったわ。前の会社の藤木って奴な、あれ、お前に気があるぞ。少なくともワンチャンあると思われてる」

 


まーちゃんはヘラヘラ笑いながらシレッと言いはなった。本当に人のこととかまったく考えられない人なんだ、この人は。大人になっても世界が自分を中心に回っていると信じて疑っていないんだ。理解し難い前衛的な彫刻のように歪な形をしたまーちゃんの自己愛。

 

私は一瞬頭が真っ白になるくらい呆れて、何も言わずに足早にまーちゃんの横をすり抜けて立ち去ろうとした。まーちゃんに並んだ瞬間、その細くて血管が浮いた長い指が私の手首を掴む。

 

「アケミ、行かないでくれ。アケミのことはなんでも知りたかったんだ」

 

……そんな風に言われると、私がまーちゃんを許してしまうことを、この人はよくわかっているんだ。

 

私は言う。

 

「そう言う割には私はまーちゃんのこと、何も知らないみたいなんだけど?」

 

何にもやってないのにずっと一人暮らしでどうやって生活してるの?

 

ツイッターにいつもいるけどいつ寝てるの?

 

どうして私の側にいつもいようとするの?

 

……どうして私に、好きだって言ってくれないの?

 

いつも通りの疑問が頭の中をグルグルし始めたのが馬鹿らしくなって、私はそのまま、まーちゃんを置き去りにするくらいのつもりで足早に歩き始める。

 

まーちゃんは私の言ったことなんてまるで聞いてないみたいに、後ろからゴチャゴチャと言いながらまとわりつくようについてくる。

 

「なぁ、サンタ狩りしようぜぇサンタ狩りぃ」「楽しいぞサンタ狩りは」「これから絶対流行る、いや、流行らせる」「拡散だ」「取り敢えずハンズに行って準備を整えなきゃだな」

 

同じようなことを何度も何度もしつこく話して五月蝿い。十二月だけど。

 


まーちゃんを見ないようにしながら私は言った。

 


「ところでなんなのよ、サンタ狩りって」

 

まーちゃんはその質問を待ってましたとばかりに私の前に回り込み行く手を塞いで直立して敬礼のポーズをした。道行く人が何事かと私達を眺めるから私の羞恥心が声にならない悲鳴を上げる。

 


「サンタ狩りと言うのはだな!」

 


まーちゃんのよく通るでかい声。始まっちゃったよ、おい。こうなると止められない。

 


「サンタ狩りと言うのはだな! この世にはびこるすべての嘘の根源を断絶するために、クリスマスのほぼ全翼を担うプレゼントイベントをぶっ潰すことであります! 僕は考えました、クリスマスについて。サンタクロースについて。そこにある欺瞞について! 親が我が子につく分かりやすく取り返しのつかない嘘について! 親が子供にサンタクロースの存在についての嘘をつくから、子供はその嘘が明るみに出た時に『ついてもいい、善良な嘘というものもあるのだ』と勘違いするのであります。あります! 普段から『嘘をついてはいけないよ』と道徳的な教えを説いている親が嘘をつくのだから、子供はそれをみて嘘を肯定するという無意識の土台ができ上がる。そうやって育った子供が大人になり平気で嘘をつくようになる。そうしてこの欺瞞と作り笑いでできた醜い世界ができ上がっていったのだ。みんな平気で嘘をつきやがる。自分自身に嘘をついていることすら気付きもしないで。子供も大人も、老人も、学生もサラリーマンも教師も神父も新郎新婦も坊主も学者も政治家も警察も官僚も裁判官も作家も芸術家も肉体労働者も売春婦も料理人も医者も八百屋も魚屋も肉屋もハンバーガーショップの店員も家具屋も職人も弁護士も団体職員も自営業も投資家も財産家も貧乏人もみんなみんな嘘ばっかりだ。サンタクロースが着ている服の赤色は、真っ赤な嘘の赤色だ。あれはコカコーラがキャンペーンに使った色なんかじゃない、嘘の赤、嘘をつく舌の赤だ、僕はサンタさんが許せない、サンタ狩りだ!」

 

そこまでまーちゃんが一息に喋ったところで私は出店でケーキを売っているサンタクロースの格好をした小柄な女の子を指して「じゃああの子から狩ろう」と言ってみた。

 

そしたらまーちゃんはちょっとだけ思案してから「あの子は可愛いから狩らなくて良い」とかいけしゃーしゃーと宣った。どういう了見だ。馬鹿馬鹿しいと言うか、まーちゃんは阿呆だ。

 


……サンタ狩りなんて言っていたのはどこ吹く風、結局いつも通り安い大衆居酒屋で二人でビールをしこたま飲んで(飲み代は私が払った)、クリスマス価格!って売りにしてたフライドチキンなんか注文したりして、日がかわったあたりで店を出て街をブラブラしていたら叩き売りみたいな値段になっているクリスマスケーキを発見したのでホールで二つ買って広い公園に行って二人で手づかみで食べた。手もほっぺたも安っぽくてベタベタなクリームでグシャグシャ。

 

ケーキを食べ終わって芝生に座って煙草に火を点けた。まーちゃんも欲しそうだったから一本あげた。

 


酔いをさましながら空を眺めていたら流れ星が一筋。それを見たまーちゃんが「今の流れ星、サンタさんじゃない?」って嬉しそうに笑いかけてくる。サンタ狩りのことなんか忘れちゃったみたいだ。

 


馬鹿で可愛そうな頭のネジが緩んだ寒がりのまーちゃん。震えているからその手を握ってあげる。

 

こんな風に色々言ってるけど、結局私はまーちゃんを嫌いになることなんて出来ないから、仕方なくまーちゃんを祝福してあげる。

 


「まーちゃんは怖いものはないの?」私は尋ねる。

 


「なんにもないよ」まーちゃんは強がって笑う。

 


メリークリスマス。

 


サンタが流れ星になって落ちていった。まーちゃんがそう言うなら、それはそうなのだ。少なくともまーちゃんと私にとっては。

 

昨日のことを思い出していたら、いつの間にか午後三時。お腹が鳴るのを隠してオフィスからミスドに走る。

 


毎日三時にドーナツを食べながら、まーちゃんがちゃんと私に全部を話して、「好きだよ」って言ってくれるのを待っている。

 

馬鹿みたいかな?でも仕方ないんだ。

 

自分にはどうしようもない、大切な気持ちなんだ。

 

だって私は、まーちゃんみたいに外側がカリカリしていて中が柔らかい、トースターで焼いたミスドのオールドファッションが、とても、大好きなんだから。

連作詩篇 : 幻影少女

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#1

ヘイルヘイル

時にこれは日常

もう壊れたりしない

もう壊れたりしないというセリフ自体が壊れてる罠

静かな曲

静かなメロディーで英詩は何を言っているか分からない

だから勝手に想像する

あとで訳文を読んでビックリする

時に時間に

時間の感じ方

何処にもない時間

瞼がいつの間にか重く

重く

時に赤

時に

あぁ

食べて寝て起きて

嘘をついて

震えて

迷って

あぁ

眠い

冷えるヘイルヘイル

真珠のセッション

隠者のパーティー

彼方にいるあなた

何処にもない私

#2

とばないでヘイルヘイル。泣く事を忘れた私、あなた。真夜中の山頂でヘイルヘイルの目に涙がゆっくりと溜まっていく。

「此処が何処だか分からない、今が何時だかわからない、自分が誰だかわからない」

ヘイルヘイルは静かに唇を動かす。こういう時に私が何を言っても仕方がないと分かり切っているので、小刻みに震えるその手を注意深く握る。コチコチに強張ったその手は子供の頃に食べた水色のアイスキャンディーのように冷たい。なんとか解きほぐしていつものように温かく柔らかで少しだけ湿った繊細な指先の感触を取り戻そうとする。しかし山の中のピンと張りつめた冷気は二人の体の表面はおろか芯まで凍てつかせて、本来の体温は戻ってきそうにない。俯いていたヘイルヘイルが何かを思いついたように、二人で二つとも摺り合わせて四つだった手を唐突に引っ込めた。

「触らないで」
どうして。
「どうして、ヘイルヘイル」
「触られるのが嫌だから」
わかったよ。
「わかったよ、ヘイルヘイル」
「ちょっと向こうに行っていて」
なんでだろう。
「なんでだろう、ヘイルヘイル」
「いちいち呼ぶのはやめて。前に嫌だって言ったでしょう」
「確かに君は言った、ヘイルヘイルはいちいち呼ばれるのが嫌だと言った、でもその後に機嫌が直ってからすぐ、『あの時は嫌だったけど、本当はそういう風に話すのって、嫌いじゃないの』とも言った。だからこうしているんだよ、ヘイルヘイル」

黙らないで、分からないよヘイルヘイル。長い沈黙。ヘイルヘイルが暖をとろうとしてその白い陶器のような両手に息を吐きかける音しか聞こえない。音がそれ以外に何もない。ヘイルヘイルの発する僅かな音を心細く聴いていると、世界中にヘイルヘイル以外に生きているものはいないんじゃないかと思える。動物も植物も、人間も、自分自身も。此処に本当は自分はいなくて、ヘイルヘイルが一人でうずくまっているだけじゃないのだろうか。

どのくらいの時間が経ったのか分からない。時計もないし、空はのっぺりとした一色の雲に覆い尽くされ月も星も見えない。外因的に時の流れを計る事の出来る要素が何もない。ようやくヘイルヘイルが口を開いたのは、私が自分は本当に幽霊のような存在ではないかと疑いはじめた頃だった。

「とにかく“今”は嫌なの」
ヘイルヘイルは時刻以外の時間を表す言葉については特に強調して話す。
「呼ばれるのも、こんな風に喋るのも“今”は嫌なの。“さっき”までは良かったんだけど……駄目なの。日が昇るまで喋らないって約束してくれるんなら、手を触ってくれてても良いよ」
分からないよ、なんでそんな事を言うのか。でも今だけは少し嘘をついて分かっている振りをする。またヘイルヘイルについた嘘が少しだけ積もる。雪の滅多に降らない街に舞い降りる新雪のように。
「分かったよ、とりあえず黙るよ。二人でいるのに触れ合わないのは寂しいものだ。君がそうしたいと言うなら、そうするよヘイルへ……」

言いかけて頬に切り傷の出来てしまいそうな視線を一瞬だけ感じとったような気がして、慌てて自分のカサカサに渇いた唇に人差し指をあてる。さっき剥いてしまった甘皮の部分から滲んだ僅かな血液が指の第一関節と第二間接の間に付着する。それに気付いているのか気付いていないのか、ヘイルヘイルは私の手をとって、真上に突き立てられた指をゆっくりとその温かい口の中に含んだ。それに合わせるように、指の先から力が抜けていってしまう。細く青白い血管が透けて見える瞼が伏せられているのは何時からなのだろうか。

指の先に、ヘイルヘイルの湿ってそこだけ独立した生き物のような動きをした舌が絡み付く。そっと動かそうとするとヘイルヘイルは眉をしかめ私を口と紅い舌の粘膜から解放する。そのまま行き場をなくした手の平は、力強く絡めとられ指と指の間を挟むように手と手を無理矢理合わた状態で私のコートの広いポケットに押し込まれた。

夜明けまではおそらくまだまだ時間がある。二人して昼間にほとんど何もせず眠るように過ごしていたものだから、眠りに落ちていつの間にかこの時間が終わっていくという選択肢もないだろう。ヘイルヘイルもその事をきっと分かっている。怒ったような顔をして私と顔を合わせようとしない。ときどきその手がポケットの中でモゾモゾと動く。掴んだり、離したり、強く求めるように引っ掻いたり、優しい素振りで撫で回したり。

もう何も喋れない。喋る必要もない。ヘイルヘイルの徐々に暖まっていく繋がれた指の柔らかさと湿度だけが、私にとっての世界のすべてだ。少なくとも朝が来る前までの時の間は。

ままならないね、涙が零れ落ちるヘイルヘイル。ずっと繋がっていたいけど、その頬が渇く頃に永く続いた夜が明けてしまう。

#3

ヘイルへイル

いつまでも日常

いつまでも壊れてる

いつからか壊れてる

何処で壊れたの?

あまりにも自然に

暖かいね

雪を溶かして

体から抜けていく

高い高い空から思い切り叩き落す

あとには何も残らない

残る気配がない

加速するヘイルヘイル

伸び縮む今日明日

手を伸ばす細い腕

何時かいたあなた

もういない私

#4

急がないでヘイルヘイル。笑う事の出来ない私、あなた。いつかまた出会う事が出来るなら、その時は笑顔がいいね。

#5

ヘイルヘイル

濁った夢の中しかみない

両の目には何も見えていない

ガムみたいな整髪料の香り

橋から見える向こう側の明かり

終わらない営み

消えていく休日

オーバードライブ

何も話せない

感じるまま朽ちた

枯れた

また春が来る

行って返ってブランコの振れ幅

じきに止まる

止まって透き通る空に

唄う

メロディーを忘れた

響かない鼻唄

芯にしかない

ひび割れるヘイルヘイル

不吉な双子

繰り返すセンテンス

生き続けたあなた

彼岸で佇む私

#6

沈黙と加速。

雄弁と減速。

不可逆な流れ。

やっちまった事はどうしようもない。

出会いと別れ。

その後の事。

信頼。不誠実。純粋。後悔。忘却。暴力。傷跡。終焉。回復。禁忌。無知。儀式。聖域。性交。友情。過去。未来。残像。現在。汚濁。時間。想像。……思出。

かつてこの手にあった筈の、あの時あの場所で一瞬だけ感じ取った、幻想としての奇跡の記憶。

ヘイルヘイル。

明日なんて来ない方がいい。

透けていく言葉。

刺のような塊。

ただもう眠りたい。

退屈に飽き飽き。

焦燥に悶絶。

遥か彼方未来。

血の混じる痛み。

染み付いた体温。

何気ないやりとり。

寄りかかる術もない。

交わされる視線。

意味を持たない。

あった筈の想い。

なんで、

なんで、

何処で取り零したの。

崩れ落ちるヘイルヘイル。

永遠のデジャヴ。

不死者の戯れ言。

喋り続けるあなた。

口のきけない私。

#7

ヘイルヘイル

溶けていく希望と呼ばれた嘘

歪んで捉え切れない時間軸

変わる季節

虚実と誇張

作り出す正解とその破壊

足りない足りない足りない

腕に滲む血液

使えない刃物

真っ白な心

薄汚れた体温

走り出す事を忘れた身体

衰えた思い出

膨張する感受性

忘れないでヘイルヘイル

地続きのフェスティバル

忘我のカルナバル

振り切って暗い路地へ

何処を見ても誰もいない

優しさを持ち去ったあなた

一人取り残された私

#8

ヘイルヘイル。アイムノットオンリーワン。

水色だった頃


 
雨雲が連れてくる秋のセンチメンタルにのせて、僕の失恋の歌を作りました。

声に出来なかった言葉や、伝えられなかった想いが抱えきれなくて、僕は歌を唄っているのかもしれません。

 

 

“水色だった頃”
作詞作曲 : 今村真継
アレンジ : adam

京王線千歳烏山を過ぎると
いつでも誰かを思い出してしまう

春のはじまり
桜吹雪がハラハラと舞い落ちる
秒速5センチメートル

約束のピアス
僕も同じ事してた

守りたいものがある

No, Non.

美しいものは
いつでも傷だらけ
傷つけばつくほど
美しくなれるから

夏の終わりに燃え落ちる流星
ひとすじの光
涙みたいだね

泣きながら走ってる
君の一番近くにいたのに

「好き」とは言えなかった

No, Non.

傷だらけで走ってる
僕を見つけても見ない振りをして

笑顔でいておくれよ

No, Non.

僕は臆病者だよ

緑の街から

No, Non.

 

 

渚にて

夏の終わりの、やさしくて少し寂しい海の波打ち際をイメージしたインスト曲をスタジオで録ってきました。

 

ドラムを叩いている赤髪の男が僕です。

 

渚にて
作曲 : 藤村友雄
編曲 : adam

 

短編小説 : ひとりぼっち戦争

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戦争に行ってきた。

それはとても酷い戦争で、多くの数の人間が死んだ。

僕の目の前で、親友の上半身が吹き飛ぶのを見た。

ある者は突然、大声を上げて叫び出し、そのまま走り去って蜂の巣になっていった。

僕自身も沢山の人間を殺した。

ある時はショットガンで、ある時は腕のように太いナイフで、ある時は地雷を仕掛け、またある時は装甲車に乗って、人間を虫ケラのように踏み潰した。

僕の部隊がいたのは最も戦闘が激しい地域だったので、たまたま運が良かった僕しか生き残らなかった。

僕が優秀な兵士だったわけではない。

ただ、生存を誰よりも強く望んだ事と、兵器の扱いが上手かった事が功を奏した。

惨たらしい人間の死にあまりにも多く触れすぎたせいで、僕の心はガラクタになってしまった。

やっとの思いで戦場から生まれた街に帰ってきた頃、僕は、既に人間ではなかった。

人間の形を辛うじて保っている、別の何かだった。

出迎えた家族は僕の生きて帰って来た事を喜んだものの、僕の見た目以上の変化に戸惑い、怯えているようだった。

僕は家族からの腫れ物のような扱いと作り笑いに耐えられなくなり、同じ街で広くて安く住める物件を探して、一人で暮らすようになった。

幸いにも戦争に勝った軍から慰労者年金がしばらくは支給される予定だったし、元々の仕事だった金工の技術を生かして、自分で作成した指輪やペンダントトップを、昔からの伝手を頼っていくつかのお店に卸して静かに暮らして行くことが出来た。

昼は近所に借りた工房で作業をし、日が暮れると帰り道にある安酒場に寄ってビールを飲んで簡単な夕食を食べ、家に帰って眠った。

ベッドの中で考えるのは、戦場で何の意味もなく散っていった友人達と、変わってしまった僕を受け入れられずに、連絡が途絶えた恋人の事ばかりだった。

週に一日だけ休みをもうけ、バイクに乗って海に出かけ、潮騒を聞きながら図書館で借りてきた本を読んで過ごした。以前に翻訳で読んでいた海外の古い小説を、辞書を片手に原文で読むのが僕のお気に入りだった。

僕はゆっくりと、そして着実に、平穏な生活を手に入れていった。

“もう人を殺さなくて済む“

そう思うと、ガラクタになってしまった心も、ほんの少しだけ癒せるような気がしていた。

一人で仕事をこなし、必要最低限の人間にしか会わないよう、注意深く日々を過ごした。

.......ふと気がつくと、僕は夜中に想像の中で一人遊びをするようになっていった。

僕のガラクタになってしまった心を組み合わせて、兵器を作って、想像の中の自分と殺し合いをするのだ。

僕は戦場を経て、自分でも気付かないうちに、根っからの人殺しになってしまったようだった。

ひとりぼっちの戦争で、僕は僕を撃ち抜いて、僕は僕を撃ち抜いた。

バン、ドン、バン。

頭の中で。

バン、ドン、バン。

戦争の音が。

バン、ドン、バン。

鳴り止まない。

 

 

失われた者への祈り 〜その2〜

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こんにちは。

 

今日の東京はとてもいい天気です。

 

躁うつ病の軽躁状態なのでなかなか夜に眠れず、少し体が疲れている感じがしますので、午後には隣町の温泉に行ってゆっくりして来ようと思います。

 

 

さて、今日はもう一度、母について書こうと思っています。

以前の母についてのエントリーはこちらです。

 

 

正確には数年前、母が死んだ直後に書いた日記をアップします。

 

現在とは文章のスタイルも言葉の選び方も一人称も何もかも違うので、当時からの僕の変化と成長を感じ取っていただければ嬉しいです。

 

よろしくお願いいたします。

 

 

母が死んだ日 

 

毎日、空は底が抜けたかのように、突き抜けて青かった。雲が少なかった。陽射しは細かい針のように肌に刺さった。何度も上を見上げる。太陽が、白く目を侵食する。

夏。

母が焼かれるのを待っていた。

 

 

断片。

 

 

母が死んだ。突然だった。クモ膜下出血。聞いた事はある。倒れてから二日で死んだ。

息を引き取った深夜二時半頃、兄弟はそれぞれ休んでいて、丁度俺だけが母に付き添っていた。

その時、母の絵を描いていた。
相変わらずヘタクソで、独りよがりだった。

 

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 葬儀に関してこういった言い方は不適切であるが、通夜も告別式もとても良かった。
母を慕ってくれている人が沢山集まった、本当に良い式だった。

 

 

フラグメンツ。

 

 

もっと、母さんに優しくすればよかった。母さんが生きている最後に実家を訪ねた時、見送りに出ようとした母さんを無下に拒絶した自分がどうしても許せない。見送りくらいさせてあげれば良かった。もう、これは一生後悔して生きるしか、ない。

母さん、ごめんなさい。母さん、俺は悔しい。母さん、愛してる。母さん、なんでいなくなったの。母さん。いつも質素だった母さん。誰にでも優しかった母さん。俺を愛してくれた母さん。

俺は良い息子ではなかった。母さんは、良い母親ではなかった。俺達は愛し合っていた筈なのに、上手く愛し合う事が出来なかった。

俺が、狭量だったせいで。

キリスト教の事だって許してやれば良かった。生活費を渡す時も渋らず勿体ぶらず、笑顔で渡せば良かった。

母さん、俺は悔しいよ。
母さんに結婚式に出て欲しかった。
俺の孫の顔だって見せたかった。
もっとデカい仕事をして、褒めて貰いたかった。母さんは、そんなのどうでも良いと思うけど。

母さん、悔しいよ。俺は悔しい。一生悔したままだと思う。

母さん、愛してる、上手く伝える事が出来なかった、愛されていたのに、応えられなかった、それが俺の十字架だ。

ぜってー忘れねぇ。
ぜってー忘れねぇ。

己の愛の無さ。
己の狭量さ。

 

 

まだまだ相当生き生き生きる。
俺が逝くまで、母さん、見守っててくれ。

母さん、ごめんなさい。
母さん、ありがとう。
母さん、愛してる。

後悔するくらいなら、なんで生きているうちに言えなかったんだ、畜生、畜生、畜生。

 

 

 

病に犯された少年、それを知ることになる少女

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夕暮れ時の帰り道を、ぼくはカゴと荷台の付いたあかい自転車で辿っていた。

 

荷台には彼女が座っている。

 

夕日が雲と混ざり合ってグレーとオレンジがあやふやに交錯した空模様の中、なだらかな坂道をゆっくりゆっくり滑り降りていく。


荷台にちょこんと座っている女の子と、あかい自転車と、夕暮れと、帰り道。もうなんにもこれ以上はいらないんじゃないかと思った。

 

だから、そう言ってみた。


「なんかもう、今、世界がおわってもいい気分だわ。うん、なんか、満足」


自転車の後ろに座って彼女は、それを聞いて面倒くさそうに含み笑いをする。ぼくのロマンチスト癖がまた始まったとでも思ったんだろう。

 

そういえば、彼女はぼくにたまに言っていた。

「あんたのそれ、ナルシストみたいでウザい」

 

この文章が彼女の小言をちゃんと踏まえられているかどうか、正直そんなに自信はない。

 

……ぼくの自分に酔った台詞に対して、なかなか何も言おうとしない彼女に少しだけ不安になって、片手を後ろに回してその脇腹あたりをつついてみた。

 

「ちょっとぉ、やめてよ、落っこちちゃうじゃん、脇腹弱いんだよ」
「落っこちちゃってもいいじゃん、ねぇ、なんか言ってよ」
「…………ハァ」
「じゃあ何も言わなくてもいいから、後ろから“ぎゅう”ってして?」


彼女の頼りなくて華奢な腕が僕の腹部あたりに絡み付いた。

ぼくは、彼女の手の形がとても好きだった。ぼくの手みたいにゴツゴツした節がなくて、血管が透けて見えるくらい白く、細くて、本当に同じ人間なのかと疑ってしまうくらいだった。彼女の体はどこをとっても文句のつけようのないくらい魅力的だったが、その手のしなやかさは特別に美しかった。
うしろから抱きしめられて、背中に彼女の大きい乳房がハッキリと感じられる。

あとで彼女の部屋に着いたら、ぼくはその乳房の柔らかさを背中越しの服の上からじゃなくて手の平で直に感じるんだろう。そうしたら彼女は、少しだけ体を震わせて、上ずった声と一緒に柔らかい吐息を僕の頬に吹きかけるんだろう。


それ以上に必要なものが一体全体、この世界の何処にあったっていうんだろう?


ぼくは、自分に与えられたものに対して何も疑わずに、そのままゆっくりと、緩やかな坂道を二人乗りのあかい自転車でブレーキを掛けながら滑り降りるスピードで、彼女とずっと一緒に歳をとっていくんだと思っていた。それはとてもとても自然で、素敵な事のように思えていた筈だった。

 

ぼくが、自分の手で、全てを粉々にぶち壊すまでは。